令和5年度を迎えて 〜附属図書館長挨拶
令和5年4月から本学の行動指針(BCP)レベルが「0(ゼロ)」となり、3年以上に及んだ新型コロナウイルス感染症下での制限の多い大学生活にもいったん区切りがつけられようとしています。今年は仙台の桜の開花が平年より2週間近くも早く、附属図書館本館が位置する川内キャンパスでは華やかな桜並木の景色とともに新入生を迎えられることを嬉しく思います。
附属図書館は、感染拡大初期こそ閉館を余儀なくされた時期があったものの、大学の「知のインフラ」としての機能を継続するため各種の取組みを行ってまいりました。
2021年年頭のご挨拶の中で「ハイブリッドな図書館のあり方を模索」「研究活動への支援を加速」「ハイブリッドな教育支援」など早急に実現すべきポイントを挙げておりましたが、2023年の春を迎えた現在、以下のことが実現されています。
・電子ブックの整備及び利用促進強化
コロナ禍の2020年度には紙の本の貸出が半分以下にも落ち込みましたが、自宅からもアクセス可能な電子ブックの購入を強化した結果、国内発行分の利用数が前年度の倍に跳ね上がりました。
・電子ジャーナル契約方式の変更
購読のみの契約から、研究者が負担していた投稿料も合わせた契約方式に切り替える試みを2022年からWiley社との間で、2023年からはSpringer Nature社との間で開始しました。この方式では、雑誌掲載後に誰でも経費負担なく読めるオープンアクセス論文とすることが出来るため、より多くの研究者に読まれる可能性が高まります。
・「総合知デジタルアーカイブ」の構築
オープンサイエンスの推進と人文系研究分野を国際拠点化するという目的のもと、図書館資料だけでなく、総合学術博物館、史料館、災害科学国際研究所、文学研究科等の所蔵資料を搭載・提供するシステムの構築に着手しました。2023年度内にシステム稼働予定です。
このほかにも所蔵資料のオンライン展示など多くの成果があり、それらは大変喜ばしいものですが、大学が国際卓越研究大学への採択を目指すなどいっそう研究力を強化していく中、図書館としても今後も変わり続けるであろう大学生の学び、研究をサポートしていくため、改革のスピードを上げていく必要があります。文科省から今年公表された「オープンサイエンス時代における大学図書館の在り方について(審議まとめ)」 でも、他大学と連携したディジタル・ライブラリの実現等が求められています。オープンサイエンスの推進は、より良い社会を実現していくためのイノベーションを起こす地盤ともなるため、図書館として新たな業務に挑む勇気が必要な場面もあるでしょう。
冒頭で触れた川内の桜は、その植樹のきっかけとなった本学の民法学者の中川善之助先生にちなみ「中善並木」と呼ばれ、記念碑には「若き日の友情と感激のために」との文言が刻まれています。神経科学者の端くれとして考察を加えるならば、若い頃に得られる友情と、その交流の折々に脳内で分泌されるであろう神経伝達物質ドーパミンの効果により、友との絆の記憶はより強固なものになると想像されます。大学図書館は、若き学生たちが思う存分学び、研究者とも語り合い、彼ら自身の将来も社会全体の未来も明るいものとするための多面的なサポートの場だと思っております。彼らの中から多様な分野で世界をリードする人材が輩出されることを祈りつつ、本学附属図書館も成長していければと思います。
東北大学附属図書館長
大隅 典子