思い出・エピソード

教員の方々からお寄せいただいた工学分館にまつわる思い出やエピソードをご紹介します。


(五十音順)


五十子 幸樹 先生

研究活動の支えとしての工学分館 [PDF]

私が東北大学にお世話になるようになったのは2008年6月からで,今年でちょうど10年になります.私の赴任の直前に,社会人の立場で博士後期課程に在籍されていた方が,質量要素として回転慣性質量を用いた見掛け質量装置を用いることで高効率な動吸振器を実現する方法を提案され,学位を取得されていました.その研究を更に発展させ,建築物の地震時応答制御に実用化するための研究プロジェクトが立ち上げられ,私も関わることとなりました.

社会人時代,建築構造設計に関わっており,免震・制振建物の設計や日本建築学会の振動制御関連委員会活動において動吸振器については基本的な知識を持っていましたが,本格的に研究するのは初めてでした.既往文献のサーベイから始めることとなり,工学分館には大変お世話になりました.

動吸振器は1920年代に提案されたもので,その当時の論文は電子化されていないものが多くあり,既往研究に関する論文を集めるためによく工学分館に通ったことを覚えています.現在は便利な時代で,インターネットで検索すると容易に論文が手に入るようになっていますが,それでも古くて電子化されていないものは入手が困難です.流石に伝統ある国立大学だけあって,古い論文でも図書館に行けば比較的容易に手に入ることに感謝したものです.

論文を書いていて行き詰まったり,引用すべき論文があることに気づいた時に,夜間に工学分館に行ったこともしばしばあります.首尾よく論文のコピーを手に入れて早速読んでみると,期待していたことが書かれていないこともあれば,自分が思いついたことが既にそこに書かれてあり,既に解決された問題であったことを発見してがっかりしたこともあります.

研究を進めるにあたり,目的の論文を手に入れるまでいてもたってもいられない時に,工学分館には夜間でも入館できることを大変ありがたく思ったものです.また,電子化されていない文献が整理されて保管されており,見つけ出すのもそれほど大変ではありませんし,ほぼ確実に,思い立ったら直ぐに目的の論文が見つけられることは大きな安心感に繋がっています.

工学分館40周年を機に改めて感謝申し上げ,今後とも私達の研究活動を支えて下さることに期待します.

佐々木 一夫 先生

歴史的な論文を読む [PDF]

いまはほとんどの論文がインターネットで入手できる。以前は図書館に行って、雑誌の必要なページをコピーしなければならなかった。コピー機のない時代には、手作業で論文を書き写していたらしい。

工学分館を私が利用するようになったのは工学部に着任してからである。あるとき、量子力学誕生の契機になった歴史的な論文を見たいと思い立って、分館に出かけた。それは1901年にAnnalen der Physikに掲載されたマックス・プランクの黒体輻射理論の論文である。黒体輻射は、統計力学の重要な応用問題として、どんな教科書にも載っている。講義の準備をしていてこの論文が気になったのだ。工学部創設以前に出版された雑誌をはたして所蔵しているのかと思いつつ探してみると、見つかった。こんなに古い論文を読めるとは、さすが東北大学だと感心したものである。

早速プランクの論文をコピーして読んだ、といいたいところだが、原文はドイツ語(論文のタイトル部分を下に示す)なので歯が立たない。しかし、式を追うことで、どういう計算をしているかはほぼ理解できた。数学が世界共通語であることを実感したひとときである。

工学分館にまつわる出来事としてはこれくらいのことしか思い浮かばないが、分館前の池の水面で反射した朝日が、創造工学センターの建物に映し出す波の模様が面白くて、デジカメで撮った写真があるので、これを右に掲げて締めくくりたい。

正田 晋一郎 先生

一度行ったらやめられない“Abelujo” [PDF]

分館のゲートを通ると,奥の方にAbelujoと書かれた扉が見える。まずは中に入ってみよう。

Abelujo(アベルーヨ)とは,エスペラント語で「養蜂箱」の意。人が集まってアクティブに活動する場というイメージから名付けられた。学生がさまざまな情報を適確に収集し,自己研鑽するのに相応しい名称だ。Abelujoはふたつのエリアからなる。手前が仲間と情報交換するグループ学習エリア。その奥にあるのがLanguage Studio(語学自習エリア)だ。

「工学英語」に演習プログラムを組み込み,語学環境を利用した“自習”の習慣を涵養する。20の個別ブースがあり,ヘッドセット付きPCによるネットワークを利用したALC NetAcademy2,TOEFL・TOEIC試験用の学習教材(図書・CD)が用意されている。

Abelujoは工学研究院の支援により2015年に工学分館内に設置された。工学系の図書館としてはユニークな施設だ。なぜエスペラント語なのか。それは英語はもとより,より国際的,多言語,多文化の普及の補助的な役割を意識したからである。エスペラントの名を冠した工学系図書館は,世界でもここ青葉山ただ一つだろう(おそらく)!!

塚田 隆夫 先生

図書館との40年を思い返して [PDF]

私は,来年3月に本学工学部を卒業して40年を迎えます。教養部そして学部3年生の頃には,あまり図書館に縁のなかった私にとって,40年前に4年生として研究室に配属になり,卒業研究に取り組むに至って,ほぼ初めて図書館(室)を利用することになりました。研究室が片平の非水溶液化学研究所(現 多元物質科学研究所)内にあったことから非水研の図書室を良く利用しましたが,当時の非水研の古びた建物の2階の奥にあった書庫の少しカビ臭い古い本の匂いが思い出されます。学部4年生から約四半世紀を,片平で学生,教員として過ごしましたが,若い頃は,今のように部屋に居ながらにして,あらゆる情報を入手できる時代ではありませんから,研究の合間に図書室に足を運び,書棚に並ぶ各雑誌の目次から自分の必要とする論文を探し,図書室のコピー機を使用して初めて論文を手にできるといったように,今に比べるとずいぶん効率の悪い作業をしていたように思います。一方で,私の研究内容が化学以外の領域を含むこともあり,非水研以外,例えば周辺の流体研,金研の図書室にもよく伺いましたが,他研究所の図書室巡りは,情報収集という名目の束の間の息抜きの時でもあったことは確かです。ある研究所の図書室に伺った際,学生時代に講義を受けた名誉教授の先生にお会いし,懐かしさと驚きを感じたことを思い出します。そのような中,青葉山の化学系や機械系の図書室,そして工学分館にも何度も足を運ぶ機会があり,特に工学分館の書籍,学術雑誌の豊富さには,驚きと羨望を感じました。そのたびに,片平と青葉山の距離の遠さを痛感していたこともありましたので。

あれから数十年経過した今,情報の電子化が我々の生活の中に浸透し,インターネットの普及により,世界中のあらゆる情報を瞬時に入手できるようになりました。図書館の利用形態も大きく変わり,本学の検索システム,電子ジャーナル・ブックリスト,データベースリストを眺めると,その利便性は極めて大きく,研究に必要な情報はほぼすべて入手できるような状況にあります。結果として,昔に比べかなり近くなった工学分館にも足を運ぶことはほとんど無くなりました。また,約30年前にアメリカに留学した際,休日を問わず24時間開館している図書館を見て,日本もこのような状況になればと思っていましたが,工学分館の現在のタイムテーブルを見ますと,ほぼ同じ状況になっています。さらに,学習・教育に関る蔵書も増加し,アクティブ・ラーニングのための学習空間を提供するAbelujoも含め,設備・施設も充実化され,学生たちは工学分館を自学自習の場として有効に活用しているように思います。電子ジャーナルの価格の継続的な上昇等,難しい問題もあるかとは思いますが,工学分館,そして本学付属図書館におかれましては,ぜひ現在の環境を継続,さらに発展させ,本学の学習,教育,研究活動に対してより効率的な支援をお願いいたします。一方で,ユーザーである我々は,現在の環境がかなり恵まれた環境であることを自覚して,これを最大限活用し,教育,研究の向上に努める必要があると思います。

周りの若い人たちを見ますと,タブレットを巧みに操り,論文や書籍を読んでいる光景をよく目にしますが,私自身はディスプレイを通して論文等を読むことが未だに苦手であり,電子ジャーナルからダウンロードした論文を印刷して読むことが多く,なかなか現代の情報化社会に馴染めない一人であることを最後に申し添えておきます。

長野 明子 先生

工学分館と言語研究 [PDF]

工学分館のみなさま、この度は設立40周年、おめでとうございます。

私は情報科学研究科の人間社会情報科学専攻の所属し、言語学や英語の教育・研究に従事しています。タイトルの「工学分館と言語研究」の中の「と」は、等位接続詞の「と」―英語で言うとand―であるだけでなく、後置詞の「と」―英語で言うとwith―でもあります。日々の研究活動において、工学分館の存在は欠かせないものですので、「工学分館と共に言語研究を行っている」―doing linguistics with the Engineering Library―という気持ちだからです。

英語や日本語のように長い歴史をもつ言語にはたくさんの単語や固有の表現があり、それらについて分析を行うには手元にある辞書類だけでは不十分ということが往々にしてあります。また、言語表現についてだけではなく、分析に使う概念についても出典の原文を正確に読み込む必要があります。必要な論文や図書が東北大学付属図書館にあればそれを利用しますが、ない時の方が多く、そういう際はいつもMy Library経由で分館に依頼し、国内外の大学から取り寄せてもらってきました。これまで、どれほどの複写論文や図書貸し出しをお願いしたか、わかりません。図書館員の方々はレファレンスのプロであり、My Libraryに入れた資料の情報に多少の不備があっても<必ず>こちらが求めているものを見つけてきてくれます。しかも、最短の期間でです。お願いする資料の中には、相当マニアックなものも含まれるのですが、そういうものでも、すばやく正確に対応してくれます。同時に、こちらの都合に合わせて、資料取り寄せの時期を少し遅らせるなど、臨機応変に対応することもやって下さいます。今となっては、研究上欠かせない場所になりました。

工学分館には、文系研究者にとってもう1つ得難い魅力があります。それは、所蔵されている書籍自体です。そこに並んでいる工学系、機械系の単語や言語表現の数々は、出身大学の英文学科図書館で馴染んできたものとはかけ離れています。こんなことを考え、研究している人たちもいるのか!と、ここに来るたびに、世界は広いことを実感できるのです。

飛ヶ谷 潤一郎 先生

建築図書の分類が学生の進路に及ぼした影響 [PDF]

わたしと工学分館との付き合いは、今から四半世紀前の学部2年生のときに建築学科に配属が決まり、青葉山に通うようになってからだと思う。当時、大学入学の時点では、工学部には学科や系に分かれておらず、2年生の進学時に配属が決定される仕組みになっていて、建築学科の人気は(今とは異なり?)高かったので、1年生のときはまじめに勉強をした。しかし、専門課程に進む前に建築の勉強をするには、どうすればよいのかわからない。もちろんインターネットのない時代で、長期間の旅行もできない貧乏学生だったので、ひたすら読書に励んだけれども、購入できるのはおもに文庫や新書などに限られたので、しばしば図書館を利用した。1年生のときに川内の図書館に通っていると、やがて建築関係の図書は絵画や彫刻の図書といっしょにKの分類であることに気づく。建築は工学ではなく、美術に分類されるのだと。

ところが、2年生になって建築の専門科目を学びはじめると、建築構造力学のような工学部らしい科目も当然受講することになる。工学分館では建築の図書の棚に、確かにそのような工学関係のまじめな教科書や参考書も並んでいるが、全然読む気が起こらない。むしろ美術書がないことは、建築の専門科目にそのような教養は必要ないのかと残念に思った。それでも2年生には普段の居場所がないので、読書をするためよりも、自習をするために工学分館を利用したように記憶している。3年生になると、製図室に自分の机が与えられるので、講義以外の時間は製図室で過ごすことが多くなった。さらに必修科目が増えたため、読書を楽しむ余裕はなくなり、工学分館にも川内の図書館にも通う機会は少なくなった。だから、4年生の研究室配属で建築史及び意匠研究室を選んだ。しかし、研究室には日本建築史に関する文献は充実しているものの、卒業後は他大学の大学院で西洋建築史を研究しようと考えていたわたしは再び図書館のお世話になり、その願いを叶えることができた。

教員として戻ってきた今では、学生のときに比べると工学分館の利用頻度は減ったが、工学部の教員のなかでは多いはずと自負しているし、学生にも図書館を活用するように指導している。けれども最近は留学生も多く、また外国の大学では一般に建築学科は工学部所属ではないので、人文系の図書や外国語の図書も増やしてくれることを期待したい。

星野 仁 先生

工学分館における勉学の思い出 [PDF]

私は工学部・環境科学研究科を停年退職し,現在,上記「支援室」を非常勤で担当しています.工学分館から創立40周年に際し,思い出やエピソードを述べるよう依頼がございました.悩みましたがお引き受けして,工学分館と小生の関わりについて述べたいと考えます.

小生は昔分析化学の研究室(四ッ柳隆夫教授)に勤務し,「学科旧蔵図書 化学」に通い詰めていました.特に利用していた書籍は,

1) Handbook of Organic Analytical Reagents, (K. Ueno, et al) , 1982, CRC Press.

2) Handbook of Triarylmethane and Xanthene Dyes, (O. Valcl, et al), 1985, CRC Press.

3) Photometric and Fluorometric Methods of Analysis, Part 1 and 2, (F. D. Snell), 1978, John Wiley & Sons.

4) Electronic Absorption Spectra of Radical Ions, (T. Shida, Kyoto Univ.) 1988, Elsevier.

であり,この五冊には小生の研究進展に際し,限りなくお世話になりました.

また,実は北青葉山分館で発見した洋書,

5) Water Chemistry, (V. L. Snoeyink and D. Jenkins), 1980, John Wiley & Sons.

に感銘を受け,購入いたしました.が,後日工学分館の「学科旧蔵図書 土木」に本書が存在することを発見し,残念な思いをいたしたこともあります.

また,分析化学の講義時に学生諸君から「熱力学」の理解を進展させるには? と問われ,次の二書(工学分館二階書架に存在)を紹介しました.すばらしく良い書物です.

6) 化学熱力学 ?分子の立場からの理解? (G. C. Pimentel, R. D. Spratley, 榊 友彦 訳) 1977 東京化学同人(ただし,記述単位がkcal/molでkJ/molではありませんでした)

7) 入門化学熱力学 (D. H. Everett,玉虫伶太,佐藤弦 訳) 1991 東京化学同人

以上のようにずらずらと小生と図書館との関係を勝手に述べてしまいましたが,すべてとても深い関係でした.とにかく工学分館は小生の研究者・教育者としての立場を支えてきたものです.電子ジャーナル化の効果は大,ではありましょうが,新着文献を手にとって読んでいた時代を思い起こします.なんだか,とても良き時代でした.

工学部・工学研究科と環境科学研究科在籍の皆さん,図書館を大事にして,勉学の場として多くの時間を過ごす所にしましょう.一階奥の「学科旧蔵図書」へも行ってみては? 古いけど素晴らしい,内容の高い書籍を発見するかも!

山本 悟 先生

研究活動を支えてくれた工学分館 [PDF]

最近はほとんど利用しなくなってしまいましたが、ネットで論文が容易に手に入る前はよく利用していました。私の研究分野は数値流体力学(CFD)ですが、大学院生から助手になった当たりの1990年前半頃までは、ASME(アメリカ機械学会)やAIAA(アメリカ航空宇宙学会)のジャーナルは工学分館でしか手に入らなかったので、最新号が出るたびに工学分館に行き、ざっと目を通して、面白そうな論文をコピーして持ち帰ったものです。また当時Academic Press(現在Elsevier)のジャーナルだったJournal of Computational Physicsは、特にCFDの数値解法が続々発表されていたことから、ずらっと並べられた分厚い各巻を取り出しては、役立ちそうな論文を念入りに探したものでした。現在のインターネット時代では、Google検索すれば簡単に目的の論文が見つかり、東北大学内であればそのほとんどがダウンロードできますので、私もこの便利さに慣れてしまい工学分館に行く機会がめっきり減ってしまいました。そんな折、1年ほど前ですが所属する学会から、東北大学の名誉教授で現在の流体科学研究所の前身である高速力学研究所を創設した沼知福三郎先生の回顧記事の執筆を依頼されました。私の恩師である大宮司久明先生(現東北大学名誉教授)のさらに恩師に相当する先生ですので、私自身はほとんど情報を持っておりませんでしたが、いろいろ調べていくうちに、沼知先生の研究業績目録が工学分館に所蔵されていることを知りました。幸い工学分館から借りることでき、事実に正確な回顧記事を執筆できました。ネットで簡単に論文が手に入る時代でも電子化されていない書籍はそれが所蔵されているところから入手しなければなりませんし、たとえば漠然と何かアイデアを見つけたいときに印刷された書籍をペラペラめくるのは効果的です。設立から40年を迎え、工学分館の役割も時代とともに変わってきましたが、書籍を大量に保管する場所は青葉山にはここしかありません。貴重な書籍を後世まで所蔵することは工学分館の大事な使命の一つです。