資料説明

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(1) 阿部文庫

阿部次郎著『人格主義』 岩波書店発行、大正11年版

 阿部文庫の蔵書は、日本文化研究所創設のために購入された書籍が大部分と見られ、阿部の手沢本は殆ど含まれていない。本書も阿部自身の著作ではあるが、後に古書店から入手された、昭和14年の第13刷本である。「今の社会状勢が大分違」ってしまったため削除すべき所を指摘したり、文中の金言を「巻末に載せては如何ですか」の提案を行うなど、阿部の手に入る前に身近な人物が書き入れたような跡が見える(阿部文庫)。


斎藤茂吉著『柿本人麿(評釈編巻之下)』 岩波書店発行、昭和14年版

 斎藤茂吉(1882-1953)による柿本人麿の歌の評釈。茂吉は昭和9年の総論編発刊以来、『万葉集』を代表する歌人の柿本人麿に関する研究を精力的に発表した。その結果、アララギ派歌人としての名声に加え、学者としての評価をも高めた。本書は著者署名入り献呈本である(阿部文庫)。


村岡典嗣著『日本思想史研究』 岡書院発行、昭和5年版

 村岡(1884-1947)は、大正12年に東北帝国大学法文学部に設置された日本思想史学科初代教授である。ドイツ文献学を基礎とし、「認識されたものの再認識」を主題とする史的文化学を提唱した。また第3代館長として、附属図書館の発展に尽力した。本書は著者署名入り献呈本である(阿部文庫)。

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(2) 石津文庫

Kierkegaard,Soren. Der Begriff der Angst.Jena,1923.

 デンマークの宗教思想家キルケゴールの著作集の中の『不安の概念』。1923年発行のイエナ版。八つ折り判で、ナイフで頁を切りながら読む。多くの書き込みが、精読の跡を示している(石津文庫)。


田辺壽利編『宗教と神話〈社会学大系6〉』 国立書院発行、昭和23年版

 神話の文化的機能や社会構造との関係に注目したマリノフスキーらの学説を前提として、「宗教と社会」「「宗教と科学」「神話伝説」「儀礼」等のテーマを論じた論文集。石津は第三編「宗教と哲学」を担当している。多くの書き入れや付箋は、後に自ら手を入れた跡と見られる(石津文庫)。


家坂和之著『社会学(一般理論 上巻)』 高山書店発行、昭和25年版

 著者の大学における社会学普通講義の覚書をまとめたもの。体系的な入門書を目指した旨が「序」に記されている。全体は「科学としての社会学」「社会文化的現象の一般的構造」の二章から成る。八つ折り判で、頁の表側が空白になっていて、メモ等に便利な装丁になっている。実際本書には、石津のものと見られる書き入れがびっしりとなされている。なお著者は、昭和26年に東北学院大学から東北大学へ移り、現在は名誉教授(石津文庫)。


宮家準著『修験道における宗教儀礼の構造 五』 昭和43年2月学位請求論文
 同  『修験道儀礼の研究』 春秋社発行、昭和45年版

 学位請求論文第6章のコピー(1252-1508頁)は、慶応大学の400字詰原稿用紙を用いている。石津が慶応大学に移った後に、論文審査の際に使用したものと思われる。この論文は二年後に加筆修正され『修験道儀礼の研究』として上梓された。同書は著者署名入り献呈本として、石津文庫に納められている(石津文庫)。

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(3) 伊東文庫

伊東信雄著「多賀城跡調査報告書T−多賀城廃寺跡−」 宮城県教育委員会・多賀城町刊行、昭和44年

 多賀城廃寺は、古代の陸奥国府である多賀城に付属する寺院跡であり、九州の太宰府に付属する観世音寺と共通した性格の寺院である。昭和36年から43年にかけて大規模な調査にとりくみ、その寺院の性格、伽藍配置の創建から焼失するまでの変遷を明らかにした。本書は、「陸奥国分寺跡」と並ぶ、伊東信雄東北大学名誉教授の東北古代史研究の代表的業績のひとつである(伊東文庫)。


伊東信雄著「宮城県遠田郡不動堂村素山貝塚調査報告書」 東北帝国大学法文学部奥羽史料調査部刊行、昭和15年

 素山貝塚は、宮城県小牛田町に所在する縄文時代早期末(約7000年前)の貝塚である。伊東名誉教授の調査によって早期の縄文土器の特色が東北でははじめて明らかにされるとともに、かっての海岸線が30Km内陸にのびていたこともわかった。考古学の学術書としても画期的なものである(伊東文庫)。


伊東信雄著「沼津貝塚出土石器時代遺物」考古資料第一〜三集 東北大学文学部東北文化研究室、昭和37〜39年

 沼津貝塚は、石巻市に所在する東北地方屈指の大規模な縄文時代貝塚である。明治20年代から昭和10年代にかけて発掘によって膨大な数の骨角器、土器、石器、土製仮面、土偶などが収集された。本資料集には多数の貴重な資料が紹介されており、現在これらの資料は全て重要文化財に指定されている(二集三集は伊東文庫、一集は文学部考古学研究室所蔵)。


伊東信雄編「瑞鳳殿 伊達政宗の墓とその遺品」 瑞鳳殿再建期成会発行、1979年

 本書は、伊東信雄東北大学名誉教授を中心として行われた仙台藩祖伊達政宗公の霊廟瑞鳳殿墓室発掘調査報告書である。内容は、発掘調査記録を主体とし、考古、地質、建築、歴史に関する調査研究成果が盛り込まれている(伊東文庫)。


伊東信雄著「天平産金遺跡」 涌谷町教育委員会発行、昭和47年

 涌谷町黄金迫黄金山神社境内の古瓦出土地は陸奥国守百済王敬福が朝廷に献上した黄金の産地と伝えられていたが、この付近は当時の産金地であったことが昭和32年東北大学文学部考古学研究室の発掘調査によって確証された(伊東文庫)。


伊東信雄著「善応寺横穴古墳群調査報告書」 仙台市教育委員会発行、昭和43年

 善応寺横穴古墳群は、古墳時代末期の墳墓群で、当時の東北地方の文化状態を知る上でも非常に貴重であった。本書は伊東教授などによる発掘調査を行った調査結果報告書(伊東文庫)。


伊東信雄編「感仙殿伊達忠宗 善応殿伊達綱宗の墓とその遺品」 瑞宝殿発行、1985年

 本書は、仙台藩二代藩主伊達忠宗と仙台藩三代藩主伊達綱宗の感仙殿・善応殿の墓室調査報告書である。内容は、発掘調査記録を主体とし、これに歴史的・地理的環境及び各分野の関連科学の調査研究成果を含んでいる(伊東文庫)。


伊東信雄著「古代東北発掘」 学生社、昭和48年

 著者が過去において行ったいくつかの発掘や調査の結果について一般人を対象として書かれた(伊東文庫)。

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(4) 梅原文庫

フリンダーズ・ペトリー著「考古学70年」 ロンドン、1931年

 エジプト考古学の創始者のひとりであるイギリスの考古学者ペトリ(1853〜1942)の自伝。その生い立ちから、エジプト各地の発掘調査を経て、晩年のパレスチナ研究まで、実証的考古学の歩みが語られる。梅原の師である京都帝国大学の初代考古学教授、浜田耕作はペトリーのもとに留学し、日本考古学の発展に大きな影響をあたえた(梅原文庫)。


V.スタイス著「国立博物館ミケーネ文明コレクションU」 アテネ、1926年

 梅原は、ヨーロッパ留学中に、精力的に各地の博物館で収蔵品の入念な観察を重ねた。本文庫には、数百冊に及ぶ欧米各国の博物館資料の解説書類が含まれている。ギリシアの青銅器文明を扱った本書にも、梅原の書き込みが残されている(梅原文庫)。


ルロア・グーラン著「トナカイの文明」 パリ、1936年

 フランス最高の先史考古学者のひとりで、旧石器時代研究の泰斗、ルロア・グーランの25才の時の処女作。ユーラシア北方のトナカイ狩猟民や遊牧民の民族誌、また旧石器芸術など、総合的にトナカイをめぐる人類文化を考察した。梅原に謹呈の署名がある(梅原文庫)。


アヴベリー卿「先史時代」 ロンドン、1913年

 著者の旧名はジョン・ラボック。1865年に出版された初版において、人類が絶滅動物と共存していた旧石器時代と、磨製石器を使用した新石器時代とを時代区分した。本書は、その後の発見を取り入れて大きく改訂された第7版。「古代の遺物と現代の未開人の風俗と習慣から例証される」という副題が示すように、当時は考古学と民族誌学とが渾然としていた(梅原文庫)。


「大英博物館、エジプト第4、第5、第6室、コプト室の案内書」 ロンドン、1922年

 梅原は、ヨーロッパ留学中に、精力的に各地の博物館で収蔵品の入念な観察を重ねた。本文庫には、数百冊に及ぶ欧米各国の博物館資料の解説書類が含まれている。古代エジプト展示室の、2800点の資料解説である本書にも、梅原の書き込みが残されている  (梅原文庫)。


ハインリッヒ・シュリーマン著「トロイとその遺物」 ロンドン、1875年

 シュリーマンにより最初に発掘されたトロイの都市遺跡の調査研究書。トルコ西部のヒッサルリク丘にある遺跡の発掘調査は、1871〜73年に行われた。5期にわたる遺構が明らかになり、シュリーマンは2期目の都市を、ホメロスの叙事詩「イーリアス」に描かれたトロイであると考えた(梅原文庫)。


E.ラルテとH.クリスティー著「アクイタニアの遺物」 ロンドン、1875年

 副題は、「南フランスのペリゴールおよび隣接地方の考古学と古生物学への貢献」。ヨーロッパにおける旧石器時代研究の確立期の画期的業績のひとつ。新人の骨を出土した、クロマニヨン洞穴をはじめ、著名遺跡が密集するレゼジー地区を中心とする調査研究書。旧石器時代を「トナカイの時代」として、石器の分類や彫刻のある骨角器の考察もなされているが、まだ洞穴壁画美術は発見されていない(梅原文庫)。

 
ゴードン・チャイルド著「青銅器時代」 ケンブリッジ、1930年

 イギリスの偉大な考古学者チャイルドが、エジンバラ大学教授時代に著した、ヨーロッパ青銅器時代の総合的な概説書。青銅器の各型式、前・中・後期における欧州各地域が解説される。著者は語学に優れ、中欧・東欧を含めてヨーロッパ先史文化の伝播と社会進化を論じた多くの業績で知られる(梅原文庫)。

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(6)狩野文庫

相阿弥作『君台観左右帳記』 永録2年写本【複製】

 室町幕府の同朋衆(文芸や芸能を専門とする僧侶)による座敷飾りのマニュアル。先進の中国文化を取り入れながら、「座敷」という日本独自の生活空間を形成していく様子が読み取れる。いわば、日本の美意識の母体を形成した書。原本は未確認で、この狩野文庫本が現存する最も古い、資料的にも価値の高い写本とされている(狩野文庫)。


ゑ入 江戸大絵図(えいり えどおおえず) 江戸表紙屋市郎兵衛刊、貞享元年(1684)

 17世紀中頃までの近世初期の地図は大型図が多く、遅れて小形の懐中図、やがて切絵図等が作られていく。江戸地図は、寛文10年(1670)遠近道印作・経師屋刊が実測図のはしりで、その後中村市郎兵衛、林吉永といった版元からも大型図が次々に刊行された。この表紙屋刊の図は、林吉永刊図などとよく似た構図で、貞享末年まで発行された。武家地が6割を占める城下町の様子や、明暦大火以後作られた日除地や広小路の所在が示されている(狩野文庫)。


東北大学附属図書館