(展観目録第110号)
「いぬ」年に関する図書展目録
日 時 昭和45年1月13日(火)、14日(水) 各午後1時から4時まで
場 所 東北大学附属図書館会議室
まえがき
狗臨井吠影投井死という話が、法眼宗第三祖智覚禅師永明延寿(ー975)の宗鏡録66に見えるこれに類した話は、既に智度論89にもあるが、また、イソップ物語にも出てくるようである。とかく犬はほえるもの、この犬吠は、上代大嘗会に外蕃の参朝した際、犬人即ち隼人が、犬の遠吠をまねたというから、その一声は甚だ貴重なものであったろう。故に吠えるという字は、口篇に犬とかくというが、そのよく吠えること(殊意癡撰白河燕談)が諺にもなって一犬形に吠え、千(万)犬声に吠える(潜夫論賢難朝野僉載等)という。
犬は古来、人間社会との関係が深く、また、多方面にわたっていて、いろいろの民俗や文学、言語等を造成してきた。
今回は、いぬ年にちなみ、館蔵の諸文献を陳列して、そのいかに関係の広いかをながめてみよう。
目 録
○一 般
1. 犬 世界大百科事典2 1964(平凡社)
・犬の噂(賀古清廉撰雪□独談1) ・銭を乞うて物を買う犬(忘れ残り上=岩本左七編続燕石十種1) ・犬書を使する(釈・達央編経□漫録3) ・犬の遠島(釈・達央編経□漫録3) ・犬に位及ざりし事(根岸守信撰耳嚢2) ・犬尾短話(藤堂良道撰老婆心話6) ・犬糞新道(竹内 [雲濤] 編ほごのうち) ・犬の三用(雪□独談1) ・犬の忠心(雪□独談1) ・犬救主於火(清・徐珂撰清稗鈔92) ・其主の危難を知らせんとて殺されし犬の話(松浦静山撰 甲子夜話31) ・犬主人の危難を救ひし話(温知双書7) ・僧珍営因聖寺狗助其役(続高僧伝34) ・犬の妻となりし話(松屋筆記63) ・義犬を祭りし社寺(塩尻57)
2. 狗の物語種々 滝沢馬琴選 兎園小説外集(新燕石十種4)
3. 翁丸の話 (枕草紙七段)
4. 江戸の初世に唐犬 神沢貞幹撰翁草70
○
5. 犬の名 村瀬之煕撰芸苑日渉12
・犬の名(土肥経平撰春湊浪和上=存採双書2) ・犬の和名(小野高尚撰夏山雑談る) ・上古犬に名る事あり(安斎随筆1 嬉遊笑覧12)
○犬 病
6. ひとかみいぬ(セイ犬) 釈・殊意癡撰白河燕談2
・栗生の狂犬 上田耕撰老の路種1
○民 俗
7. 犬そとばの件(日旺通信) 柳田国男撰 昭和29
8. 犬神 綜合日本民俗語彙1
9. 犬神 喜田貞吉撰読史百話 明治49
10. 狗神 芸苑日渉8
11. 犬神伝 盤察撰温故要略1 享保7
12. 犬蠱孤蠱 山崎養成撰撩天間語1 明治40寫
13. 犬神の法 黒川玄逸撰 遠碧軒記下
14. 請狗 永尾竜道撰支那民俗志1 昭和15
○犬公方等
15. 犬天子 犬公方 滝本誠一撰乞食袋 昭和5
16. 犬公方 穂積陳重撰 続法窓夜話 昭和11
17. 犬の取締 笹川景撰 眼前小景 明治45
・元禄年中犬の御觸(一話一言26) ・元禄生類御憐(翁草29) ・綱吉(犬蓼といわる)犬を愛す(松屋筆記62) ・犬御寵愛(雪□独談1) ・犬を殺せし者(陳耽奇漫録)
18. 宋徽宗の時犬を殺すこと大禁 塩尻33
・唐土にて犬を殺すの禁(撈海一得上)
○随 筆
19. 犬 谷川徹三撰 思想遠近 昭和16
20. 犬に縁ある話 谷川徹三撰 日本人のこころ 昭和13
21. 犬雑筆 浜田耕作撰 百済観音 大正15
22. 悠久山の犬塚 市島謙吉撰 小精廬雑筆 昭和8
○和 歌
23. 犬の和歌 賀古清廉撰 雪□独談1 自筆
○文 学
24. 犬飼物語 写本 (お伽草紙)
25. 狗波利子 写本 (お伽草紙)
26. 犬つれづれ 写本 (洒落本)
27. 桃太郎の誕生 柳田国男撰 柳田国男全集8 昭和37
28. 京伝・黄表紙 桃太郎 (雀の絵あり青写真)(黄表紙)
29. 桃太郎鬼島記椿説鬼魅談語(桃太郎鬼島伝)九編 為永春水撰 一寿斎国貞等画 安政4ー慶応3(読本)
○
30. 大通時代 狆の嫁入二巻 市場通笑撰 鳥居清長画 天明元(黄表紙)
31. 唯心鬼打豆 山東京伝撰 鬼武画(黄表紙)
32. 雪梅芳譚 犬の草紙二三編 笠亭仙果撰 二世豊国画 嘉永元ー5(合巻)
33. 里見八犬伝九輯 滝沢馬琴撰 柳川重信等画 文化11ー天保12(読本)
34. 昔々春秋 [ 中井積徳 ]撰 刊
見返に「履軒先生ノ文章一時ニ傑出ストイヘドモ、伝フルモノ希ナリ此書ハ昔々ノ桃太郎ガ鬼ガ島ヲ伐ト云童話ヲ本ニテ、猿蟹合戦、狸ノ土舟等ノ昔談ヲトリ合セニテ、春秋ノ体ニ作レル戯文ナリ然レドモ其文法ノ高古ナル、実ニ作文ノ規則トスベキモノナリ」とある
35. 台州先生 含□紀事三巻 熊阪邦撰 寛政4
紀二翁事紀桃奴事よりなる
・花咲爺日本文学大辞典6 ・犬処簷下驅不去十年鳩摩羅多疑之伽耶舎多曰汝父示所埋金(正宗記3)
○ことわざ
36. 犬飼さんと七夕さん(天人女房) (綜合日本民俗語彙1)
37. 犬と猿 松屋筆記92
38. 犬骨ヲリテ鷹ノ餌食(犬骨折って鷹にとらる) 経□漫録1
○隠 語
39. 秘密の偵人を犬といふ 安斎随筆7
40. 人の陰事を聞出すを犬という 恩田仲任撰 竃北瑣語5
・王蜀時 有簫懐武者 主尋事団 乃軍巡之職也 所管百余人 毎人各養私名十余輩 呼之日狗(宋・桂万栄撰棠隠比事中)
・似て非なるを犬といふ(燕石雑誌1)