(展観目録第87号)
明治百年記念(その2)明治文化史展目録
 
 日 時  昭和42年11月15日(水)〜16日(木)各12時から16時まで
 会 場  東北大学附属図書館会議室
 
 本館所蔵の明治文化に関する図書のうち、ここでは宗教・教育・文学の範囲にとどめて展示する。それぞれ出版の年代順にならべて、おのずから、これら文化の歩みとその特色を窺い知ることのできるようにした。
 
○ 宗教
1. 笑耶論 杞憂道人 [明治2] (木活字版 見返に「不許行肆発板」とある)(撰者徹定は浄土宗知恩院第75代。同宗初代管長 明治24年寂 78才 破邪関係や書誌関係の著作がある。鵜飼氏
2. 御制禁切支丹本義 無尽道人編 明治5 
3. 散邪戻異志(巻頭「左邪礼石」久保季滋謹求述」 原本(奥書に「明治3年辛末春 従七位源季滋花押」とある)
4. 仏法不可斥論 杞憂道人 原本(明治3、記)(「此書鄙見而不取不見」とか「右之論実ニ鄙見不足取 暁江」等 墨書してあるが、同4年「12問題」を附して出版されている。別本参照)
5. 辯妄 安井衡(息軒) 明治6(見返に「官許」の木記あり、漢文で記してある)
6. 釈教正謬初破再破3巻 杞憂道人 明治6(縁山蔵版で、書名欄外に稟准」の木記がある。釈教正謬は耶蘇教徒の撰)
7. 問対略記 仏 エミル ギメ問 島地黙雷外2名答 干河岸貫一記 明治10 (明治9年10月26日、午前10時から午後5時まで本願寺飛雲閣で仏耶二教の根本問題について問答す)
8. 仏法耶蘇穴さがし 加藤定興編 明治14(10頁和装本)
9. 破耶顕正論 吉岡信行 明治15 
10. 仏耶優勝劣敗辯 島田軍吉演説 明治12 (著者には釈迦教西洋に渡り、耶蘇教日本人民を感化するの預言をかいた「仏耶二教之運命」という著述未刊もある由で、束縛主義の耶蘇教を自由平等の仏教で放逐すべしと説く)
11. 神仏耶蘇三教裁判 川合清丸編述 明治28(耶蘇教師や仏教居士の演説、神官の手紙をあげて「裁判」の項で判決を下したもの。判決は本書について見られたい)
12. 明治維新神仏分離史科2巻 村上専精 辻善之助 鷲尾順敬共編 昭和2
  (全国から寄せられた神仏分離資料や報告集である)
13. 和蘭学制上下 内田正雄訳 明治2
  和蘭法律書の中から学制に関するものを訳出している
14. 絵入知慧の環8巻 古川正雄 明治3 
15. 自助論(自助広説)稿本 英、斯邁爾斯撰、中村正直(敬宇)訳 「二稿」の表記あり。刊行に当って書名を次のように「西国立志論」とした。スマイル原著の増訂版(1876)による翻訳である。
16. 西国立志編(原名自助論)8冊 初版 明治4
17. 学問ノススメ 17冊 福沢諭吉 小幡篤次郎 明治6再刻。初編の初版は明治5で、明治9までに全編を刊行した。
18. 地理初歩 師範学校編 明治7
19. 小学読本 5冊 文部省編 明治7
20. 小学生徒心得 青森県第五課編 明治11
21. 幼学綱要 7冊 元田永孚撰 明治15
  宮内省蔵版の欽定教科書。次の「婦女鑑」とともに姉妹編をなしている。
22. 婦女鑑 縮刷版 西村茂樹 大正10 この書の初版は明治20年刊行6巻
23. 女子修身鑑 山井道子撰 明治24
24. 日本学制大綱4巻 川村理助 明治35
○ 文学
25. 萬国航海西洋道中膝栗毛22冊 仮名垣魯文撰 落合芳幾画 明治3・4
  第12編以下は総生寛作 画工も第13編以下、諸氏の手になる。享和2年春初刊の十返舎一九作東海道膝栗毛にならう。明治3年9月序 同9年完結 旧体小説の最初 和装
26. かたわむすめ 福沢諭吉寓言 明治5(半紙6枚 こより綴)
27. 残廃篤子息 西村雪台寓言 明治6(半紙6枚 自刊)
28. 当世利口女 服部孝三郎(萬亭)撰 惺々暁斎画 明治6(半紙8枚)
29. 伊達評定読切話3巻 篠田仙果撰 歌川国政画 明治9 合巻小説(合巻式小説は原則として上中下3冊を1編とし、2編乃至3編9冊が普通 明治15年頃迄行われ、その13,4年頃が最盛。16年以後姿を消す 最長編は高橋お伝夜叉譚8編24冊という)
30. 鳥追阿松海上新話3巻9冊 久保田彦作撰、陽洲斎周延画 明治11(明治毒婦ものの初であり、当時新聞掲載ものの単行された始めでもある。名文で明治式合巻小説の代表作、同17年4月、東京式活字版として再刊されたという)
31. 夜嵐阿鬼怒花迺仇夢5編 岡本勘造編 永島孟斎画 明治11(合巻式小説)
32. アラビアンナイト全世界一大奇書11巻 井上勤訳述 渡辺義方校正 小林清親画 明治16年7月7日版権免許 同19年9月21日版権譲受御届 同年11月11日別製本御届 同月出版(一説に第1編第5回迄は明治16年11月、第2編は第6回から10回まで18年11月12日出版という)翻訳小説
33. 諷世嘲俗繋思談初編、中編2冊 英、李頓侯撰、仏 美郷画 藤田茂吉、尾崎庸夫訳 明治18、20(聞天ロウ双書)
  明治翻訳文学界に劃期的な意義をもたらしたものといわれているが、下篇は未刊に終わったらしいという。序文、評語は漢文である。尚初篇は「美郷画」としその挿画には片仮名交りで説明がついているが、中篇では、画者の名も記さず、挿絵の説明も漢文である。
34. 新磨妹と背かがみ13巻 春の舎おぼろ撰 松斎吟光画 明治18、19(原装)
  (彫工野口円活 第13号18回で完了 「日本文学大辞典」には12冊とある) 春の舎おぼろは坪内逍遙の号。
35. 禽獣世界狐の裁判 独、ゲーテ撰 井上勤訳述 渡辺義方校正 明治17年3月18日版権免許、同19年2月18日版権買受。同年4月20日出版発売。依田学海の序文及び評言7則は漢文である。
36. ボーカス翁十月物語想天恋 伊、ボカス撰 仏、ア・サバチェール ド・カストル訳 仏、ビゴー画 佐野尚重訳補述 明治19(和装) 仏訳を重訳したもので明治初期翻訳文学の珍品。ビゴーの挿画の珍なると高瀬鉄窓 [菊亭静 近藤東之助] 笠島蜻洲蜻 田島任天等の評語または奇である。
37. 斉武名士経国美談2巻 矢野文雄纂訳補述 明治19(5版) 政治小説。
38. 一読三歎当世書生気質20回3冊 春のやおぼろ戯著 梅蝶ロウ国峰 多気桂舟等画 和装(明治18年起稿、同6月第1冊出版 同19年1月完成という。書生気質の描写に主力を注ぎ、写実主義小説の第一声といわれるが、まだ旧小説のおもかげも見える。高田早苗、天野為之がモデルとなったという)
39. 佳人之奇遇8巻 東海散士(柴四郎)著 明治19−20(和半)(一種の詩的趣向で厳正な意味での小説と云えないが文章は頗るうまい一説には高橋大華作、西村天囚刪正といわれ当時文中の詩は盛に朗吟され本書を懐中せぬ青年はなかったという 故に「通俗佳人之奇遇」(土田泰造作)「風俗佳人の奇遇」(石心鉄腸子作)などが続出し、須藤南翠の政治小説にも影響を及ぼした 後年同人による「東洋之佳人」が著作されたが殆んど顧りみられなかったという。
40. 魔詩人 田口掬汀撰 明治35(一顧の価値もない青年を魔する駄小説である(蘭江)との読者の墨記がある)
41. あられ酒 斎藤縁雨撰 明治41(8版) 小説随筆集(「覿面」等13篇からなり、うち「乙女」「春一ダース」「豆の花」を除くと、諷刺皮肉を主とした文章警句集である。初版は明治31年。
42. 足跡 徳田秋声 明治45(再版)(初版は同年4月 明治43年7月読売新聞に発表されたもの。主人公お庄の運命に弄ばされた経路を画き、田山花袋は、同じ作者の「黴」以上の傑作と評している。迫力に富んだ日本自然主義文学の水準を示すものといわれている)
○ 和歌
43. 後のかたみ 狩野美津子詠 男、剛太郎編 明治26(和半)
44. 竹の里人選歌 正岡子規(竹の里人)選 明治37(初版) 伊藤左千夫序。
○ 雑記
45. 我楽多文庫第1−16号 1冊 明治21(東京、硯友社)
46. 文学評論しがらみ草紙第1−53号(45,48,50,51欠)明治23−27 (東京・新声社) (陳列は第14号まで)
47. 帝国文学第1−15巻 45冊 明治28−42(帝国文学会) (陳列は第2巻上1冊のみ)
48. 明治大正新体詩稀本番附1枚 明治文学稀書複製会編 昭和10