東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■9月18日


 其うち夏も次第に過ぎた。宵々に見る星の光が夜毎に深くなつて来た。梧桐の葉の朝夕風に揺ぐのが、肌に応へるやうに眼をひや/\と揺振つた。自分は秋に入ると生れ変つた様に愉快な気分を時々感じ得た。自分より詩的な兄は曾て透き通る秋の空を眺めてあゝ生き甲斐のある天だと云つて嬉しさうに真蒼な頭の上を眺めた事があつた。
(『行人』「帰つてから」五)
(『漱石全集』 第8巻)


※解説: 『行人』は、『東京朝日新聞』、『大阪朝日新聞』に連載された。『東京朝日新聞』では、大正元年12月6日に第一回が発表され、途中漱石の病気のため大正2年4月8日から9月17日の休載をはさみ、大正2年11月15日に完結した。
※作品を読む: 『行人』
参考文献



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