東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■8月6日


 僕が洋行して帰つたらみんなが博士になれ/\と云つた。新聞屋になつてからそんな馬鹿を云ふものがなくなつて近来晴々した。世の中は常識のない奴ばかり揃つてゐる。さうして人をつらまへて奇人だの変人だの常識がないのと申す。御難の至である。ちて手前共の事を考へたらよからうと思ふがね。あんな御目〔出〕度奴は夏の蛍同様尻が光つてすぐ死ぬ許だ。さうして分りもしないのに虞美人草の批評なんかしやがる。虞美人草はそんな凡人の為めに書いているんぢやない。博士以上の人物即ち吾党の士の為めに書いてゐるんだ。なあ君。さうぢやないか。
(明治40年8月6日(火) 小宮豊隆宛て書簡)
(『漱石全集』 第二十三巻)



 「・・・・・・私は此夏あなたから二三度手紙を受け取りました。東京で相当の地位を得たいから宜しく頼むと書いてあつたのは、たしか二度目に入つたものと記憶してゐます。
(『こゝろ』五十五)
(『漱石全集』 第9巻)


参考文献



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