東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■8月5日


 日々暑い事だ。偖旅行の儀は延引又延行〔引〕今月の半頃ならばと思つてゐるが一方では段々考へて見ると例の小説がどうも百回以上になりさうだ。短かく切り上げるのは容易だが自然に背く〔と〕調子がとれなくなる。如何に漱石が威張つても自然の法則に背く訳には参らん。
(明治40年8月5日(月) 鈴木三重吉宛て書簡)
(『漱石全集』 第二十三巻)



 私は停車場の壁へ紙片を宛てがつて、其上から鉛筆で母と兄あてゞ手紙を書いた。手紙はごく簡単なものであつたが、断らないで走るよりまだ増しだらうと思つて、それを急いで宅へ届けるやうに車夫に頼んだ。さうして思ひ切つた勢で東京行の汽車に飛び乗つてしまつた。私はごう/\鳴る三等列車の中で、又袂から先生の手紙を出して、漸く始から仕舞迄眼を通した。
(『こゝろ』五十四)
(『漱石全集』 第9巻)


参考文献



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