東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■8月4日


 「自由が来たから話す。然し其自由はまた永久に失はれなければならない」
 私は心のうちで斯う繰り返しながら、其意味を知るに苦しんだ。私は突然不安に襲はれた。私はつゞいて後を読まうとした。其時病室の方から、私を呼ぶ大きな兄の声が聞こえた。私は又驚ろいて立ち上がつた。廊下を馳け抜けるやうにしてみんなの居る方へ行つた。私は愈父の上に最後の瞬間が来たのだと覚悟した。
(『こゝろ』五十三)
(『漱石全集』 第9巻)


参考文献



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