東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■8月23日


余は比較的閑寂な月日の下に、吸飲から牛乳を飲んで生きてゐた。一度は匙で突き砕いた西瓜の底から湧いて出る赤い汁を飲ませて貰つた。弘法様で花火の揚つた宵は、縁近く寐床を摺らして、横になつたまゝ、初秋の天を夜半近く迄見守つてゐた。さうして忘るべからざる二十四日の来るのを無意識に待つてゐた。
(「思ひ出す事など」十二)
(『漱石全集』 第12巻)


※解説: 漱石は明治43年5月頃から胃の不調を訴え、長与胃腸病院で診察を受けた結果、胃潰瘍の疑いありと診断された。当病院に6月中旬から7月下旬まで入院し、8月6日には門下生・松根東洋城の誘いにより、静岡県伊豆修善寺温泉に療養のため出かけた。しかし修善寺温泉に到着後すぐに体調不良を訴え、病の床に就くことになり、8月24日の晩には大量の吐血をし、一時危篤状態に陥った。
※「漱石文庫」関連資料: 修善寺の大患日記
参考文献



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