東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■8月17日


 忘るべからざる八月二十四日の来る二週間程前から余は既に病んでゐた。縁側を絶えず通る湯治客に、吾姿を見せるのが苦になつて、蒸し暑い時ですら障子は常に閉て切つてゐた。三度々々献立を持つて誂を聞きにくる婆さんに、二品三品口に合ひさうなものを注文はしても、膳の上に揃つた皿を眺めると共に、何処からともなく反感が起つて、箸を執る気には丸でなれなかつた。
(「思ひ出す事など」八)
(『漱石全集』 第12巻)


※解説: 漱石は明治43年5月頃から胃の不調を訴え、長与胃腸病院で診察を受けた結果、胃潰瘍の疑いありと診断された。当病院に6月中旬から7月下旬まで入院し、8月6日には門下生・松根東洋城の誘いにより、静岡県伊豆修善寺温泉に療養のため出かけた。しかし修善寺温泉に到着後すぐに体調不良を訴え、病の床に就くことになる。
※「漱石文庫」関連資料: 修善寺の大患日記
参考文献



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