東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ |
■7月26日 私は式が済むとすぐに帰つて裸体になつた。下宿の階の窓をあけて、遠眼鏡のやうにぐる/\巻いた卒業証書の穴から、見える丈の世の中を見渡した。それから其卒業証書を机の上に放り出した。さうして大の字になりになつて、室の真中に寐そべつた。私は寐ながら自分の過去を顧みた。又自分の未来を想像した。すると其間に立つて一区切を付けてゐる此卒業証書なるものが、意味のあるやうな、又意味のないやうな変な紙に思はれた。 (『こゝろ』三十二)
(『漱石全集』 第9巻)
※参考文献 |
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