東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■7月19日


 『虞美人草』は毎日かいてゐる。藤尾という女にそんな同情をもつてはいけない。あれは嫌な女だ。詩的であるが大人しくない。徳義心が欠乏した女である。あいつをしまいに殺すのが一篇の主意である。うまく殺せなければ助けてやる。然し助かれば猶々藤尾なるものは駄目な人間になる。最後に哲学をつける。此哲学は一つのセオリーである。僕は此セオリーを説明するために全篇をかいてゐるのである。だから決してあんな女をいゝと思つちやいけない。小夜子という女の方がいくら可憐だかわかりやしない。 
(明治42年7月19日(金) 小宮豊隆宛て書簡)
(『漱石全集』 第二十三巻)


参考文献



Copyright(C) 2009 Tohoku University Library 著作権・リンクについて