東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■6月3日


 蟻の座敷へ上がる時候になつた。代助は大きな鉢へ水を張つて、其中に真白なリリー、オフ、ゼ、ワ"レーを茎ごと漬けた。簇がる細かい花が、濃い模様の縁を隠した。鉢を動かすと、花が零れる。代助はそれを大きな字引の上に載せた。さうして、其傍に枕を置いて仰向けに倒れた。黒い頭が丁度鉢の陰になつて、花から出る香が、好い具合に鼻に通つた。代助は其香を嗅ぎながら仮寐をした。
(『それから』)
(『漱石全集』 第6巻)


※リリー、オフ、ゼ、ワ"レー…鈴蘭
参考文献



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