東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ |
■4月6日 「どうです御宅の桜は。今頃は丁度盛でせう」で結んで仕舞つた。 「本年は陽気の所為か、例年より少し早目で、四五日前が丁度観頃で御座いましたが、一昨日の風で、大分傷められまして、もう……」 「駄目ですか。あの桜は珍らしい。何とか云ひましたね。え? 浅葱桜。さう/\。あの色が珍しい」 「少し青味を帯びて、何だか、かう、夕方抔は凄い様な心持が致します」 「さうですか、アハヽヽヽ。荒川には緋桜と云ふのがあるが、浅葱桜とは珍らしい」 「みなさんが、左様仰います。八重は沢山あるが青いのは滅多にあるまいつてね……」 「ないですよ。尤も桜も好事家に云はせると百幾種とかあるさうだから……」 (『虞美人草』)
(『漱石全集』 第四巻)
拝啓花の頃愈御清適奉賀候上野も墨堤も人の出盛のよし新聞で見るばかりなり、久しく花には御無沙汰岡山の桜は如何にや四月の様に遊ぶ事の多い月に小説を書くのは甚だ無風流の至り来年からは注意してやめにしたい。 (明治45年(1912)4月6日(土) 野村伝四宛て書簡)
(『漱石全集』 第二十三巻)
※参考文献 |
Copyright(C) 2009 Tohoku University Library 著作権・リンクについて |