東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■4月4日


 春は眠くなる。猫は鼠を取る事を忘れ、人間は借金のある事を忘れる。時には自分の魂の居所さへ忘れて正体なくなる。只菜の花を遠く望んだときに眼が醒める。雲雀の声を聞いたときに魂のありかゞ判然する。雲雀の鳴くのは口で鳴くのではない。魂全体が鳴くのだ。魂の活動が声にあらはれたものゝのうちで、あれ程元気のあるものはない。あゝ愉快だ。
(『草枕』)
(『漱石全集』 第三巻)


参考文献


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