東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■4月30日


 凝る雲の底を抜いて、小一日空を傾けた雨は、大地の髄に浸み込む迄降つて歇んだ。春は茲に尽きる。梅に、桜に、桃に、李に、且つ散り、且つ散つて、残る紅も亦夢の様に散つて仕舞つた。春に誇るものは悉く亡ぶ。我の女は虚栄の毒を仰いで斃れた。花に相手を失つた風は、徒らに亡き人の部屋に薫り初める。
(『虞美人草』)
(『漱石全集』 第四巻)


参考文献


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