東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ |
■4月30日 凝る雲の底を抜いて、小一日空を傾けた雨は、大地の髄に浸み込む迄降つて歇んだ。春は茲に尽きる。梅に、桜に、桃に、李に、且つ散り、且つ散つて、残る紅も亦夢の様に散つて仕舞つた。春に誇るものは悉く亡ぶ。我の女は虚栄の毒を仰いで斃れた。花に相手を失つた風は、徒らに亡き人の部屋に薫り初める。 (『虞美人草』)
(『漱石全集』 第四巻)
※参考文献 |
Copyright(C) 2009 Tohoku University Library 著作権・リンクについて |