東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■4月2日


 我からと惜気もなく咲いた彼岸桜に、愈〔いよいよ〕春が来たなと浮かれ出したのも僅か二三日前の間である。今では桜自身さへ早待つたと後悔して居るだらう。生温く帽を吹く風に、額際から煮染〔にじ〕み出す膏と、粘り着く砂埃りとを一所に拭ひ去つた一昨日の事を思ふと、丸で去年の様な心持ちがする。
(「琴のそら音」)
(『漱石全集』 第二巻)


参考文献


Copyright(C) 2009 Tohoku University Library 著作権・リンクについて