東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■4月11日


 唯さへ京は淋しい所である。原に真葛、川に加茂、山に比叡と愛宕と鞍馬、ことごとく昔の儘の原と川と山である。昔の儘の原と川と山との間にある、一条、二条、三條をつくして、九条に至つても、皆昔の儘である。数へて百条に至り、生きて千年に至るとも京は依然として淋しからう。此淋しい京を、春寒の宵に、疾く走る汽車から会釈なく振り落された余は、淋しいながら、寒いながら通らねばならぬ。南から北へ――町が尽きて、家が尽きて、灯が尽きる北の果迄通らねばならぬ。
(「京に着ける夕」)
(『漱石全集』 第十二巻)


参考文献


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