東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■3月4日


 拝啓先日は御来駕失敬致候其節の御話しの義は篤と考へたくと存候処非常に多忙にて未だ何とも決せざるうち大学より英文学の講座担任の相談有之候。因つて其方は朝日の方落着迄待つてもらひ置候。而して小生は今二三週間の後には少々余裕が出切る見込故其節は場合によりては池辺氏と直接に御目にかゝり御相談を遂げ度と存候。然し其前に考の材料として今少し委細の事を承はり置度と存候
 一 手当の事 其高は先日の仰の通りにて増減は出来ぬものと承知して可なるや
 それから手当の保証 是は六やみに免職にならぬとか、池辺氏のみならず社主の村山氏が保証してくれるとか云ふ事。
 何年務めれば官吏で云ふ恩給といふ様なものが出るにや、さうして其高は月給の何分一に当るや。
 小生が新聞に入れば生活が一変する訳なり。失敗するも再び教育界へもどらざる覚悟なればそれ相応なる安全なる見込なければ一寸動きがたき故下品を顧みず金の事を伺ひ候
(明治40年3月4日(月) 坂元雷鳥あて書簡)
(『漱石全集』 第23巻)


参考文献


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