東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■3月22日


 さて御願があります。私は一昨年の秋に一つ半になる女子を失ひました。今雑司ケ谷へ埋めてありますが何うか其墓を拵らえてやりたいと思つてゐますが、あなたに其図案を作つて頂けますまいか。普通の石塔は気に食ひません。何とか工夫はないものでせうか。字は此方でだれかに頼むつもりです、でなければ娘の事だから自分で書かうかと思つてゐます
(大正二年(1913)3月19日(水) 津田青楓宛て書簡)
(『漱石全集』 第24巻)



 しばらくは路が平で、右は雑木山、左は菜の花の見つゞけである。足の下に時々蒲公英を踏みつける。鋸の様な葉が遠慮なく四方へのして真中に黄色な珠を擁護して居る。菜の花に気をとられて、踏みつけたあとで、気の毒な事をしたと、振り向いて見ると、黄色な珠は依然として鋸のなかに鎮座して居る。呑気なものだ。
(『草枕』)
(『漱石全集』 第三巻)


参考文献



Copyright(C) 2009 Tohoku University Library 著作権・リンクについて