東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■2月10日


 小康は斯くして事を好まない夫婦の上に落ちた。ある日曜の午宗助は久し振りに、四日目の垢を流すため横町の洗湯に行つたら、五十許の頭を剃つた男と、三十代の商人らしい男が、漸く春らしくなつたと云つて、時候の挨拶を取り換はしてゐた。若い方が、今朝始めて鶯の鳴声を聞いたと話すと、坊さんの方が、私は二三日前にも一度聞いた事があると答へてゐた。
 「まだ鳴きはじめだから下手だね」
 「えゝ、まだ舌が回りません」
(『門』二十三)
(『漱石全集』 第6巻)


参考文献


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