東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■1月9日


 まだ、かぢかんで仕事をする気にならない。実を云ふと仕事は山程ある。自分の原稿を一回分書かなければならない。ある未知の青年から頼まれた短編小説を二三篇読んで置く義務がある。ある雑誌へ、ある人の作を手紙を附けて紹介する約束がある。此二三箇月中に読む筈で読めなかつた書籍は机の横に堆かく積んである。此一週間程は仕事をしやうと思つて机に向ふと人が来る。さうして、皆何か相談を持ち込んでくる。その上に胃が痛む。其の点から云ふと今日は幸ひである。けれども、どう考へても、寒くて、臆劫で、火鉢から手を離す事が出来ない。
(「火鉢」『永日小品』)


※荒正人『漱石研究年表』によれば、「火鉢」は明治42年1月9日(土)の出来事だと推定されている。「火鉢」は同年1月18日の東京・大阪の『朝日新聞』に掲載された。漱石42歳。
参考文献


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