東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■1月2日


 初日の出しだいに見ゆる雲静か
(明治42年1月5日(火) 村上霽月あて書簡)
(『漱石全集』 第23巻)


※村上霽月(1869〜1946)は、俳人。



 また正月が来た。振り返ると過去が丸で夢のやうに見える。何時の間に斯う年齢を取つたものか不思議な位である。
 この感じをもう少し強めると、過去は夢としてさへ存在しなくなる。全くの無になつてしまふ。実際近頃の私は時々たゞの無として自分の過去を観ずる事がしば/\ある。いつぞや上野の展覧会を見に行つた時、公園の森の下を歩きながら、自分は或目的をもつて先刻から足を運ばせてゐるにも拘はらず、未だ曾て一寸も動いてゐないのだと考へたりした。
(「点頭録」)
(『漱石全集』 第16巻)


※「点頭録」は、大正5年(1916)の『東京朝日新聞』、『大阪朝日新聞』に1月1日から掲載された。漱石は、この年50歳で、12月9日(土)に亡くなった。

参考文献


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