東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■1月10日


 病気中長い手紙を難有う。長い手紙を書くのは難儀だが貰う方は面白いものだ。此間は妙な関係で敦賀に居る若い婦人から君の二三倍ある手紙を受取つた。是も面白かつた。昔し正岡抔と往来する自分には随分ひまに任せて長い手紙のやりとりをした。今では忙しくてとても出来ない。(中略)
 御産はあつた。母子共健全。申の年に生れた人間で六人目だから伸六とつけた。人間も半ダース子供がある様では頗る時勢後れだ。一人が十分づゝ泣いても丁度一時間かかる。八釜敷事甚しい。彼等の前途を考へると皺が寄りさうである。
(明治42年1月10日(日)坂元雷鳥あて書翰)


※この年、漱石は42歳。
※坂元雷鳥(1879〜1938)は評論家。漱石の熊本五高時代の教え子。明治40年には朝日新聞が漱石を招聘する際、交渉役となった。
参考文献


Copyright(C) 2009 Tohoku University Library 著作権・リンクについて