東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■12月7日


 其晩夫婦は火鉢に掛けた鉄瓶を、双方から手で掩う様にして差し向つた。
 「何うですな世の中は」と宗助が例にない浮いた調子を出した。御米の頭の中には、夫婦にならない前の、宗助と自分の姿が奇麗に浮んだ。
 「ちつと、面白くしやうぢやないか。此頃は如何にも不景気だよ」と宗助が又云つた。二人は夫から今度の日曜には一所に何処へ行かうか、此所へ行かうかと、しばらく夫許話し合つてゐた。
(『門』 六の二)


※解説: 「門」は、明治43年3月から6月まで東京・大阪の『朝日新聞』に連載され、明治44年1月に春陽堂より単行本が刊行された。
参考文献



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