東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■12月23日


 元日新聞へ載せるものには、どうも斯う云ふ困難が附帯して困る。現に今原稿用紙に向かつてゐるのは、実を云ふと十二月二十三日である。家では餅もまだ搗かない。町内で松飾りを立てたものは一軒もない。机の前に坐りながら何を書かうかと考へると、書く事の困難以外に何だか自分一人御先走つてる様な感じがする。それにも拘らず、書いている事が何処となく屠蘇の香を帯びてゐるのは、正月を迎へる想像力が豊富なためではない。何でも接ぎ合はせて物にしなければならない義務を心得た文学者だからである。
(「元日」)


※解説: 漱石は「元日」を明治42年(1909)12月23日に執筆し、明治43年1月1日の『東京朝日新聞』に掲載された。「元日」では年末にお正月の話題を書くことの矛盾を記している。
参考文献



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