東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■12月21日


何でも二十日頃だよ。細君が御歳暮の代りに摂津大掾を聞かして呉れろと云ふから、連れて行つてやらん事もないが今日の語り物は何だと聞いたら、細君が新聞を参考にして鰻谷だと云ふのさ。鰻谷は嫌ひだから今日はよさうと其日はやめにした。翌日になると細君がまた新聞を持つて来て今日は堀川だからいゝでせうと云ふ。堀川は三味線もので賑やかな許りで実がないからよさうと云ふと、細君は不平な顔をして引き下がつた。其翌日になると細君が云ふには今日は三十三間堂です、私は是非摂津大掾の三十三間堂が聞きたい。あなたは三十三間堂も御嫌ひか知らないが、私に聞かせるのだから一所に行つて下すつても宜いでせうと手詰の談判をする。
(『吾輩は猫である』二)


※解説: 「吾輩は猫である」は、明治38年(1905)1月から明治39年(1906)8月まで、『ホトトギス』に10回にわたり掲載され、大倉書店・服部書店より単行本が刊行された。
※作品を読む: 『吾輩は猫である』

参考文献



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