東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■11月3日


 そのうち高等学校で天長節の式の始まる号鐘〔ベル〕が鳴り出した。三四郎は号鐘を聞きながら九時が来たんだらうと考へた。何もしないでゐても悪いから、桜の枯葉でも掃かうかしらんと漸く気が付いた時、箒がないといふ事を考へ出した。また縁側へ腰を掛けた。掛けて二分もしたかと思ふと、庭木戸がすうと明いた。さうして思も寄らぬ池の女が庭の中にあらはれた。
(『三四郎』四の十)
(『漱石全集』 第五巻)


※解説: 『三四郎』は明治41年9月1日から12月29日まで『東京朝日新聞』に掲載された。「天長節」とは天皇の誕生日のこと。11月3日は明治天皇の誕生日(太陽暦)で、昭和2年に「明治節」、昭和23年からは「文化の日」となった。
※作品を読む: 『三四郎』
参考文献



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