東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■11月29日


談話中小供が三人廊下を馳けて来て笑ひながら一寸来て下さいといふ。大方ひな子がひき付けたのだらうと思つて六畳へ行つて見ると妻が抱いて顔へ濡れ手拭などをのせてゐる。(中略)何だか様子が可笑しいから注射をしませうと云つて注射をしたが効目がない、肛門を見ると開いてゐる。眼を開けて照らすと瞳孔が散つてゐる。是は駄目ですと手もなく云つて仕舞ふ。何だか嘘の様な気がする。
(明治44年(1911)11月29日(水) 日記)


※解説: ひな子(雛子)は、明治43年(1910)3月2日に漱石の五女として生れたが、明治44年11月29日に突然亡くなった。ひな子の死は漱石に大きな衝撃をもたらしたと言われ、その死は『彼岸過迄』「雨の降る日」に幼児(宵子)の急死として描かれている。明治44年11月29日(水)から12月5日(火)までの漱石の日記には、連日のように、ひな子を喪った漱石の心情が記されている。
※「漱石文庫」関連資料: 日記及断片
参考文献



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