東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■11月14日


人間の生死も人間を本位とする吾等から云へば大事件に相違ないが、しばらく立場を易へて、自己が自然になり済ました気分で観察したら、たゞ至当の成行で、そこに喜びそこに悲しむ理屈は号も毫も存在してゐないだらう。
 斯う考へた時、余は甚だ心細くなつた。又甚だ詰らなくなつた。そこで殊更に気分を易へて、此間大磯で亡くなつた大塚夫人の事を思ひ出しながら、夫人のために手向の句を作つた。
 有る程の菊抛げ入れよ棺の中
(「思ひ出す事など」)
(『漱石全集』 第十二巻)


※解説: 大塚楠緒子(明治8年8月9日〜明治43年11月9日)は、小説家・歌人。漱石の友人・大塚保治夫人。漱石は楠緒子の死を11月13日に新聞で知った。「思ひ出す事など」は、いわゆる「修善寺の大患」から間もない明治43年10月29日から『朝日新聞』に連載された随筆である。
参考文献



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