東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■10月30日


 ある日の午後三四郎は例の如くぶら付いて、団子坂の上から、左へ折れて千駄木林町の広い通りへ出た。秋晴れと云つて、此頃は東京の空も田舎の様に深く見える。かう云ふ空の下に生きてゐると思ふ丈でも頭は明確〔はつきり〕する。其上野へ出れば申し分はない。気が暢び/\して魂が大空程の大きさになる。それで居て身体惣体が緊〔しま〕つて来る。だらしのない春の長閑さとは違ふ。三四郎は左右の生垣を眺めながら、生れて始めての東京の秋を嗅ぎつゝ遣つて来た。
(『三四郎』四の二)
(『漱石全集』 第五巻)


※解説: 『三四郎』は、明治41年9月1日から12月29日まで、『朝日新聞」に連載された。
※作品を読む: 『三四郎』
参考文献



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