東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ


■10月27日


 坂下では菊人形が二三日前開業したばかりである。坂を曲がる時は幟さへ見えた。今はたゞ声丈聞える。どんちやん/\遠くから囃してゐる。其囃の音が、下の方から次第に浮き上がつて来て、澄み切つた秋の空気のなかへ広がり尽すと、遂には極めて希薄な波になる。其又余波が三四郎の鼓膜の傍迄来て自然に留る。騒がしいといふよりは却つて好い心持である。
(『三四郎』四の二)
(『漱石全集』 第五巻)


※解説: 『三四郎』は、明治41年9月1日から12月29日まで、『朝日新聞」に連載された。「菊人形」は、人形を菊で飾り歌舞伎や劇の名場面を見せる見世物。団子坂の菊人形は明治40年頃が最盛期だったという。
※作品を読む: 『三四郎』
参考文献



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