東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ

草 枕

(初 出)新小説 明治39年9月
(単行本)『鶉籠』所収 明治40年1月 春陽堂

(内 容)
 「しつこい、毒々しい、こせこせした、その上ずうずうしい、いやな奴」で埋まっている俗界を脱して非人情の世界に遊ぼうとする画工の物語。作者自身これを「閑文字」と評しているが果してそうか。主人公の行動や理論の悠長さとは裏腹に、これはどこを切っても漱石の熱い血が噴き出す体の作品なのである。(岩波文庫解説より)

(自作への言及)
 ただきれいにうつくしく暮らす、即ち詩人的にくらすという事は生活の意義の何分一か知らぬがやはり極めて僅少な部分かと思う。で『草枕』のような主人公ではいけない。あれもいいがやはり今の世界に生存して自分のよい所を通そうとするにはどうしてもイブセン流に出なくてはいけない。(明治39年10月26日 鈴木三重吉あて書簡)

 私の『草枕』は、この世間普通にいう小説とは全く反対の意味で書いたのである。唯だ一種の感じ--美くしい感じが読者の頭に残りさえすればよい。それ以外に何も特別な目的があるのではない。さればこそ、プロットも無ければ、事件の発展もない。(中略)
 普通に云う小説、即ち人生の真相を味はせるものも結構ではあるが、同時にまた、人生の苦を忘れて、慰藉するという意味の小説も存在していいと思う。私の『草枕』は、無論後者に属すべきものである。(談話「余が『草枕』)

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